不安障害専門医制度の必要性について

 英国全土で、不安障害とうつ病に対して、2008 年からの当初 3 年間で 363 億円を投じ、IAPT (Increasing Access to Psychological Therapies)という政策が開始されています。「個人認知行動療法をもっと身近にする」ために、認知行動療法セラピストを7 年で 1 万人養成する国家政策プロジェクトです。養成された 1 万人のセラピストによって、90 万人の不安障害とうつ病の患者が認知行動療法を受けられるようになり、そのうちの半分の 45 万人が回復することが期待されています。実際、2008 年 10 月から2009 年 9 月までの 1 年間で、IAPT に 137,285 人が紹介され、79,310 人にアセスメントが行われ、41,724 人のエピソードが終結に至りました。このうち、26,870 人が複数回の治療(42.3%が低強度セラピー、27.5%が高強度セラピー)を受け、12,396 例の完遂例で、effect size は、0.97(Dropout を含む 23,163 例全体では、0.69)という非常に高い数値で、個人認知行動療法の普及の効果を示しました。不安の評価尺度であるGAD-7 は、治療前後で、11.75(±5.52)から 6.09(±5.47)へと半減、うつの評価尺度である PHQ-9 は、治療前後で、12.97(±6.57)から 6.77(±6.38)へと半減しました。英国全土をコンピュータで結んでの治療効果データ集積の成果です。この明確な数値の変化により、英国 IAPT は、さらなる予算的措置を得て、推進されていくのです。
 日本不安障害学会では、英国 IAPT にならい、日本の不安障害の患者様に、「個人認知行動療法をもっと身近にする」ための方策の一つとして、不安障害専門医制度を創設したいと考えております。不安障害専門医は、治療ガイドラインの第一選択にあるように、薬物療法あるいは認知行動療法のどちらかを患者様に選択してもらえるような治療計画ができ、個人認知行動療法の治療成績を GAD-7 と PHQ-9 で収集していきます。
 簡単なデータ収集は、コンピュータ技術の進歩により、手軽になりましたので、日本不安障害学会でも、なるべく早い時期に、個人情報を含まない治療効果データを、簡単に WEB 上で登録できるシステムを導入していくつもりです。日本の不安障害に苦しむ患者様を一人でも多く助けるためにも、個人認知行動療法を選択肢の一つとできる、不安障害専門医の実践する診療が非常に効果的であることを広く国民に数字で訴えていくことが必要になっております。
 日本不安障害学会の会員の先生方には、不安障害専門医制度(案)をご覧いただき、不安障害専門医制度の創設にご理解とご意見を賜りますように、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

日本不安障害学会 理事長 久保木富房(東京大学名誉教授)
評議員長 貝谷久宣(医療法人和楽会、パニック障害研究センター)
担当理事 清水栄司(千葉大学)、佐々木司(東京大学)、熊野宏昭(早稲田大学)